不貞行為

一概に「浮気」「不倫」と言っても、手を繋いでいた、一緒に食事をしていただけでは「不貞行為」とは認められません。

「不貞行為」が認められないと言う事は「慰謝料請求も認められない」と言う事です。


では法的に言う「不貞行為」とはなんでしょう。

不貞行為とは

不貞行為。
不倫や浮気という言葉は良く耳にしますが、この「不貞行為」というものはどういう意味なのでしょうか。

婚姻中の男女間(内縁関係も含む)には貞操義務(配偶者以外の異性とは性的関係を持たないということ)が課されます。
その貞操義務に違反する行為を「不貞行為」と言います。

裁判所の定義では

「配偶者のあるもの」が

「自由な意志に基づいて」

「配偶者以外のものと性的関係を持つ事」

と定義されており、離婚事由の中で2番目に多い事由になっています。

 

簡単に言いますと、男女が配偶者の相手以外との異性と性交渉を行う事です。

ですから手を繋いでいるだけ、一緒に食事をしているだけ、キスしているだけ、では法的な「不貞の証拠」にはなりません。

プラトニックな関係は不貞行為と認められないのです。

 

ベッドでの不倫を見つめる女性

■不貞行為を原因とした離婚

 

夫婦には「貞操義務」があるとお話ししました。その貞操義務に違反する「不貞行為」は裁判で離婚請求できる離婚事由となります。
このことは、民法770条(裁判上の離婚)に定めがあります。

 

第770条【裁判上の離婚】

1 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる

 

1-1で認めるように不貞行為は離婚事由の一つとなります。
また不貞行為が認められない場合でも常軌を逸した交際を続けている場合は、1-5の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として民法で認める裁判上の離婚事由に値する事が有ります。

喧嘩をする男女

不貞行為に該当する行為

肉体関係を持った場合が不貞行為に当たる事はわかりました。
では、以下の場合は不貞行為に当たるのでしょうか。

これは不貞行為にあたるのかどうか、と思われる事例を挙げてみます。


1. 強姦された場合
不貞行為には「自由な意志によって」という要件が加えられています。強姦で不貞行為は成立しません。
ただし強姦した場合は不貞行為が成立します。

2. 1回だけでも不貞行為?
1回のみでも不貞行為は成立します。
ですが1回という事で裁判所は請求を認めるか棄却されるのか考慮することがあります。
複数回の証拠が必須になってきます。

3. 酔った勢いで・・・
酔った勢いでも不貞行為は成立しますが、酩酊して抵抗できない場合で準強姦罪になるような場合は強姦された際と同様不貞行為は成立しません。

4. 風俗店でのサービスは?
肉体関係を伴わない場合は不貞行為とはならないのですが、性器を刺激する様なサービスは不貞類似行為に捉えられます。
しかし風俗嬢相手に慰謝料を請求するのは難しいです。

5. 別居中ですけど?
別居中だから、配偶者以外の異性と性的関係を持っていいわけではありませんので不貞行為が成立します。
しかし夫婦関係が破綻し長い場合慰謝料請求は難しくなる事があります。

6. キスは不貞行為?
不貞行為は「性的関係」が要件となります。
キスはその要件をみたさないので不貞行為とは言えません。
不貞類似行為として慰謝料請求の対象になる場合もあります。

7. 内縁関係の場合
内縁関係で婚姻関係でない場合も内縁の配偶者以外の人と性的関係を持つと不貞行為と見なされます。

8. 飲み屋の店員の枕営業
不貞行為にあたります。
ただし風俗と同様で慰謝料の請求は難しいです。

9. プラトニックな関係
性的な関係を伴わない場合不貞行為とは言えません。
ですが明らかに常軌を逸するような交際を続けており相手の平穏な夫婦生活を破たんさせた場合は慰謝料請求の対象になり得ることがあります。

10. メールやLINEの内容
明らかに性交渉のわかる様な画像や性交渉の動画があれば不貞行為の証拠となり得ます。
また「昨日のエッチは良かった」などの表現があれば証拠の一つとなり得ます。

不貞行為の立証責任について

不貞行為を立証したい場合、立証責任は訴える側(原告側)になります。

「性行為の存在を確認ないし推認できる証拠」

「ある程度の継続性のある肉体関係を伴う男女の関係」

を証明できる証拠を揃えなければいけません。

メールや手帳等の記録等は状況証拠として不十分ですし盗聴した音も証拠能力はないと判断されてしまいます。

 

一般的に探偵事務所がお渡しする浮気調査の調査報告書には時間ごとの流れの中に「ラブホテルの出入り」、または「相手の部屋への出入り」、「ビジネスホテルの同じ部屋に一緒に入る」等の画像が載せられている事が多いです。

特に「ラブホテルへの出入り」は、ラブホテル自体が「性的な行為をする場所」と捉えられている事によりラブホテルの出入りは不貞の証拠として認定されます。
「体調が悪くて少し休んでいた」という言い訳は裁判でも、よほどの理由が存在しない限り通用しないのが現状です。
滞在時間も重要になってきます。

「入ったものの、数分で出てきた」ような場合は性交渉を想像できないからです。
そのような場面の証拠が裁判では有効になり、一枚だけでなく連続性のある画像が必要となります。

 

そのような証拠に、状況証拠であるLINEやのやり取り、画像などがあれば更に証拠能力は強くなります。

抱きつく男女を撮影する女性

不貞行為による慰謝料請求の時効

不貞行為による慰謝料請求、いつまでも有効かというとそうではありません。時効というものが存在します。
2種類の時効が有る事を覚えておきましょう。


1.不貞行為(性交渉)があった時から20年
 配偶者の不貞に気づいていなくても、配偶者が初めて配偶者以外の人と性交渉をしてから20年経った場合時効が成立します。

2.不貞の事実を把握してから3年間

 

 こちらが良く知られている期間です。この3年という時効ですが以下の3つに分けられます
2-1)
配偶者の不倫相手が判明してから3年間
2-2)
配偶者と離婚しない場合は、配偶者と不倫相手の最後の不貞行為を知ってから3年間
2-3)
配偶者と離婚する場合は離婚が成立してからの3年間

時効が訪れてきてしまいそうな時は訴訟や調停の申し立てを行う事で時効がリセットされ再び1からカウントされます。


そういった手続きをする時間もないという場合は「催告」という制度を利用します。

内容証明を相手に送り慰謝料の請求を行います。

その後6カ月以内に訴訟や調停の申し立てを行う事で時効がリセットされる仕組みになっています。

 

関連ページ:不倫の慰謝料

砂時計とダイアリーノート

■不貞相手の責任について

 

不貞行為は、不貞行為をした配偶者とその相手との共同不法行為になることから、相手にも精神的損害の賠償として慰謝料の請求をする事が可能です。
しかしその請求が可能になるのは、配偶者の不貞行為の相手に故意、及び過失が有る事が条件で、

ここで言う故意とは

「既婚者である事を知っていた場合」、

そして過失とは

「通常の注意を払っていれば、相手が既婚者であることが分かった状況にあった」

上で性交渉を持つことです。


言い逃れの常套文句で「既婚者だと知らなかった」という方も多いですが、ホテルに移動する際に乗る車の中にチャイルドシートが有るのにもかかわらず「既婚者だとは知らなかった」という言い訳は通用しません。

 

ただ、お見合いパーティーなどで知り合った人間が、既婚者だと偽って参加していた場合などは、「独身だ」ということを信じても仕方ない状況であれば法的責任を問われない可能性もあります。
この場合、逆に既婚だと知らず性的関係を持たれた事により、相手に慰謝料請求が可能になる事もあります。

秘密がばれて俯く女性

不貞行為の慰謝料の相場

落ち込んで壁にもたれかかる男性

不貞行為があった場合相手に慰謝料が請求できる事はお話ししました。
さて慰謝料の相場はどのくらいなのでしょうか。

 

慰謝料の相場は100万円から300万円の間と言われています。


慰謝料の増額を要求するためには証拠を揃える事が大事です。

不貞行為の証拠が無ければ実際は不貞行為が行われていたとしても慰謝料請求が認められない事になります。

 

●慰謝料が増額になるケース

 

 

  1. 1.離婚や別居を伴う場合
  2. 2.夫婦生活が円満であった
  3. 3.婚姻期間が長い
  4. 4.不倫していた期間が長い
  5. 5.謝罪がない
  6. 6.子どもがいる
  7. 7.支払い能力が高い
  8. 8.頻繁に接触していた、またその証拠がある

 

 

このような場合は慰謝料が多くなる傾向にあります。

 

ここで一つ判例をあげておきます。
これは慰謝料が1千万になったケースです。

長年夫の不倫に悩まされた妻が夫に不倫をやめるようにお願いしたところ、夫が怒りだして妻に暴力を与えた事件。
【東京地判 平成17年5月30日 判例秘書06032059】

【判決】
婚姻期間が30年と長く、浮気の期間も14年。

夫の浮気と暴力によって受けた妻の精神的苦痛は大きいとして1,000万円の慰謝料支払いが命じられた